戦前の少年犯罪

謝るなら、いつでもおいで」を読んだ翌日にまたもや佐世保で大きな少年犯罪が起きて衝撃をうけたということは先日書いた

それがきっかけで以前から気になっていた本書を読んでみた。「少年犯罪データベース」というサイトを運営している方が著者である。

一般的に「現代社会の問題」と言われている下記のような問題。

  • イマドキの子どもは昔と違って凶悪犯罪を起こすようになってしまった
  • 昔はひどいいじめなんかなかった
  • 学校の先生は立派で、学級崩壊なんてなかった
  • ニートは現代の若者病だ

これらは実はイマドキの問題ではなく、戦前~戦中にも存在していたばかりか、むしろ昔の方が多かったのだという事例を集めた本である。

実は佐世保の2つの事件と似たようなことは、本書が集めた少年犯罪事例の中にあたりまえのように出てくる。実は酒鬼薔薇事件もそんなにびっくりするほど特異な事件ではなかったことがわかる。

例として、同級生の殺害について「少年犯罪データベース」から1つ引用してみよう。この話題は本書でも扱われている。

昭和2年(1927).6.17〔小4女子(満8~9歳)が授業中に同級生女子殺害〕
東京市本所区(現墨田区)の小学校教室で、4年生女子(10)が授業中に同級生女子(10)の頭をメートル尺で殴り、翌日死亡させた。級長で、被害者の副級長とは日頃から仲が悪く、ケンカしたもの。

引用元:少年犯罪データベース 13歳以下(14歳未満)の犯罪

級長争いで9歳程度の少女がとはなんともはやと思うが、それは実は当時は、現代以上に学歴が将来へ大きく影響し、小学校の級長争いがもとで殺し合いに発展することはままあったようなのである。

巻末の資料によると、むしろ少年犯罪が減少したのは80年代以降であり、1960年 (昭和35年) には殺人罪で補導された小学生は全国で12人にのぼっていたらしい。
ちなみに「古き良き時代を描いた」と言われ、時の首相も絶賛したと言われる映画『ALWAYS 続・三丁目の夕日』の時代設定は1959年 (昭和34年) である。

と、まるで陰惨な内容のようだが、著者の意図は少年犯罪そのものを憂うことではなく、冒頭に書いたように、ちょっと過去の資料を調べればすぐわかることなのに、それをしないで印象だけで「昔はよかった」と言っている欺瞞を暴きたいということなのだそうであり、語り口は軽妙かつシニカルであり、「読み物」として大変痛快でおもしろい。

思わず笑ってしまった一節をいくつか引用する。

 今生きていたとしたら二人とも八◯代ですが、同世代の作家もやっておられる尼さんが最近は子どもが殺人を犯すような酷い時代になってしまったと善男善女をたぶらかしています。まさしく、末法の世です。

 最近の子どもたちはほんとにおとなしくなったものです。昔と比べると遥かに人への思いやりが育ってきています。マンガやアニメなどで大量の物語に接することによって、何が人を傷つけるかという想像が働くようになってきてるのかもしれません。

 旧制高校を体験した人の大多数は、旧制高校の真の実態を知りません。周囲に甘やかされて現実と虚構の区別がつかなくなって、いつまでもバーチャルなイメージの中の旧制高校に棲んでいるのです。

こんな調子で、少年犯罪や少年心理、教育などについて真剣にしかつめらしく考えたいひとにとっては、ちょっと眉をしかめたくなるぐらいけしからんおもしろさではあるので、そこのところは前もって踏まえた上で読んだほうが良いと思う。

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