2月8日の1ツ目小僧

妖怪

2月3日付けで勤務先のBlogに書いたものの転載です。


節分の日には「家から鬼を追い出す」というイメージがありますが、むしろ「外から鬼がやってくる」という方が昔は主流だったフシがありまして、ヒイ ラギにイワシの頭をしばりつけて軒先にかざり、その生臭い匂いで鬼を寄せつけないという、いわいる「イワシの頭も信心から」という言葉の語源になった風習 をきいたことがありますね。

で、そのやってくる鬼は1ツ目の鬼だという話が、山梨や香川など、広い地域で言われているようです。

12月8日と2月8日は「コト八日 (ようか)」と言いまして、つまり12月が「事納め」、2月が「事始め」です。
いわいる、前年に山に帰った「山の神」がまた村へやってきて「田の神」となるその途中の姿ではないか、という説もあるようです。

この「コト八日」には1ツ目小僧が家にやってくるとする地域が全国にあります。

柳田國男翁の『年中行事覚書』によりますと、2月8日は「大まなこ (目) の日」で、信州では鬼の目団子と いう、3つの団子を串に刺して戸口にはさんでおく風習があるのだそうでして、いわいるこの頃にやってきた1ツ目の鬼、もしくは1ツ目小僧がそれをみて、 「おや人間は目が3つもあるのか」と怖がって近寄らないのだということなのだそうです。そしてその団子は節分の豆を潰して作ったものだとか。

話によるとこの日にザルやカゴなど「目の多い」ものを外にだしておいて、「うわっこんなに目がある!」と1ツ目の怪異がおどろいて逃げていくという地域もあるのだそうですが、これはむしろ神奈川や静岡など、関東の風習のようです。

松 本や伊那谷では「コト八日」の行事として、藁で作った馬や百足、草鞋などのツクリモノを燃やしたり村境に送り出したり、唐辛子などの匂いの強いもの (ヒイラギイワシに似ていますね) をいぶしたり、道祖神に餅をそなえたり、みんなで集まって念仏を唱えたりするのだそうです。

1月8日に上田の信濃国分寺で開かれる「八日堂縁日」では、六角柱のこけしのような蘇民将来符 (そみんしょうらいふ) という謎の護符が配布される習慣もあります。

これは旅の途中の武塔神 (むとうしん) が一晩の宿を求めたところ、金持ちの巨旦将来 (こたんしょうらい) は断り、その兄で貧乏な蘇民将来はもてなしたと。後に再訪した武塔神は、巨旦の妻となっていた蘇民の娘に「茅の輪」をさずけ、それを目印として蘇民の娘以外の巨旦一族を滅ぼしたというお話が由来だそうで。

武塔神は実は自分はスサノオだと言ったそうなのですが、いわいるお正月だけやってくる神様「歳神 (としがみ) 」だといわれておりまして、お正月の間は山にいる田の神・山の神とはちょうど正反対ですが、それにしてもどちらも「旅する神」でして、もしかしたら元は同じものだったなんてことがあったり。いやしりませんけど。

近 年は、もともと色っぽい、というかむしろエロいお座敷遊びだったといわれる「恵方巻き」が一般家庭でも行われるようになりまして、いったいどこのマーケ屋 がこんなん流行らしたんだみたいな向きもありますが、そもそも節分に厄除をするというのも、もともとはコト八日だったものと混ざっちゃったんじゃないかと いうところもあります。

京都などでは「節分おばけ」といって、鬼に限らずいろんなおばけがにぎにぎしくあらわれるのだそうで、まあ早い話がハロウィーンですね。

そんなわけでして、まあ細かい話はどうでもいいので、節分は楽しくおばけと過ごす夜だということなのでしょう。

みなさまも、素敵な「事始め」が迎えられますように。

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